こんにちは、m_yossieです。
独学で医学部再受験を頑張っている人を応援するブログとして『医師への道』を立ち上げました。医師という職業は体力を要求されますので、自分の健康に対する配慮も大事になってきます。「健康とは何なのか?」という問いは、医師だけでなく、誰にとっても重要です。
健康に関する様々な医学トピックを、一般の人にもできるだけ分かりやすく解説します。
私は医者の家系に生まれた訳ではなく、母子家庭育ち、母は高卒です。高校生の頃から医学部に憧れていましたが、2浪しても合格できず、基礎研究の道に進み、医師の夢からは遠ざかっていました。
しかし、30を前に一念発起して医学部再受験の勉強を始め、独学で国立大学医学部の編入試験に合格しました。現在、内科医として日々臨床を行っています。
また、医学部専門予備校で講師として10年間の指導経験があり、多数の生徒を合格に導いてきました。編入学試験受験者の指導経験もあります。
健康を考える上で、感染症の予防は重要です。
本記事では、コロナ禍と言われて3年が経った今、
- 日本の感染状況はどうなのか?
- 2類相当から5類への変更で、どういうことが予測されるのか?
を中心に、最新の医療記事を元に解説します。
日本では集団免疫が確立していない!
新型コロナウイルス感染症が世界的に拡大する中、日本、韓国、香港、オーストラリアといった国・地域では、出入国の厳しい制限、空港検疫やマスク着用などを実施した結果、感染者数が欧米と比べて非常に少なく、かつては感染対策に成功した例とみなされてきました。
しかし、2022年に入りオミクロン株が流行し始めると、これらの国・地域でも大規模な感染拡大が生じ、欧米を上回る新規感染者数となってしまいました。特に香港では、2022年3月4日に人口100万人当たりの1日の新規感染者数が8800人となり、1日の感染者数としては世界最高となりました(日本の総人口に換算すると、1日110万人という驚異的な数値です)。
日本では、現在も感染者数が増加中ですが、それでも、2023年2月時点で人口の24%程度です。一般に、集団免疫が成り立つとされるのは、全国民の80%以上が感染した状態であり、欧米では一応、ウィズ・コロナ状態になっていると考えられます。一方、日本が集団免疫を獲得するためには、この先7000万人以上が感染するという計算になります。したがって、集団免疫レベルに達するまでに、いかに重症化による入院や死亡を抑えるかということが大きな課題となります。
日本人の抗体保有率は低い
厚生労働省が2022年11月に実施した新型コロナウイルス抗体調査では、抗体を持っている人の割合は全国平均で26.5%にとどまり、60〜69歳では16.5%と低い値でした。同時期のイングランドでの調査では、人口の81%が抗体を保有している(感染していた)という結果でしたので、実に3倍の差があるのです。そのイングランドでさえも、70〜84歳の抗体保有率はまだ64.3%であり、高齢者では依然としてマスク着用、ワクチン接種といった感染対策は必要な状態です。
オミクロン株の感染は本当に軽症なのか?
世間ではデルタ株に比べるとオミクロン株の感染は軽症ですむという考えがなんとなく広まっていますが、オミクロン株は弱毒と決めつけるのは危険かもしれません。
なぜなら、mRNAワクチン接種率の向上と自然感染により獲得免疫ができた人が増えたために、患者数が増えても重症者が少なく、軽症であるかのように見えていると考えることもできるからです。
実際、香港ではオミクロン株が大流行し、ワクチン接種を受けていなかった高齢者を中心に多数の死亡者が出ました。2022年3月15日には1日当たり38人の死亡者数となり、日本の総人口に換算すると4750人というとんでもない数でした。一方、mRNAワクチン接種が行き渡っていた韓国では、感染者数が激増しても死亡者数には大きな変化がありませんでした。
というわけで、全く免疫のない状態でオミクロン株に感染した場合、重症化する可能性は否定できません。今後、日本が感染対策を軽視した状態で、欧米諸国と同様に日常生活、出入国の制限緩和に移行すると、重症者・死亡者数の急激な増加を招く可能性があります。
今後の新型コロナウイルス対策を考える
日本が今後、入院数、死亡者数を抑えながら安全にウィズ・コロナに向かうには、今のところブースター接種を繰り返し、高い接種率を目指すしかないようです。特に、若年者は周囲に感染を広げないという意味でもワクチン接種を軽視しないことが重要です。
現在、新型コロナウイルス感染症の内服治療薬として、ニルマトレルビル・リトナビル(商品名パキロビッド)、モルヌピラビル(商品名ラゲブリオ)、エンシトレルビル(商品名ゾコーバ)があります。高齢者やハイリスク患者にはインフルエンザと同様に早期の内服治療を確立し、感染しても入院・死亡に至らせないことも大事です。なお、ニルマトレルビル・リトナビルでは妊婦への投与の安全性も確認されています。
2類相当から5類への見直しで予想されること
政府は、新型コロナウイルス感染症の取り扱いについて、感染症上の類型がこれまでの「新型インフルエンザ等感染症」(2類相当)から「5類」に変更することを決定し、5月8日より実施されます。
類型変更後に予想されることについて、神戸大学の岩田健太郎先生が日本医事新報に寄稿されています(Web医事新報2023/1/24)。5類変更後に医療現場が大きく変わることはないだろうが、1番困るのは救急隊とその周辺だろう、と。コロナ診療の空床補填がなくなり、人もお金も必要なコロナ診療を断る医療機関が増えることが予想され、「5類にすれば全ての医療機関がコロナ診療をやってくれる」というのは、絵に描いた餅だということです。医療従事者が皆、余程の正義感を持ち合わせていない限り、自分たちが感染のリスクを背負ってまで積極的に患者を受け入れるという状況は、確かに想像しがたいです…。病院どうしで患者の押し付け合いになることは目に見えています。
また、感染してしまった、あるいは濃厚接触者となった医療従事者の勤務をどうするかという問題もあります。感染したまま勤務してよいのか。「コロナに感染したくなければ、病院に行くな」という事態にもなりかねません。
結局のところ、5類に変更したところで、新型コロナウイルスに関する諸問題が解決するわけではなく、見て見ぬふりをしようとしているとしか言えないのが現状です。
まとめ
日本の現状は、集団免疫確立にはほど遠いようです。中途半端に欧米のマネをしてウィズ・コロナ状態にもって行こうとすると、重症者・死亡者が増えるという事態を招きかねないようです。
コロナワクチン、副作用もあり大変ですが、今のところは感染予防とワクチン接種を続けて行くしか道はないです。副作用の少ないワクチン開発にも期待したいものです。
参考文献
- 菅谷憲夫 新型コロナとインフルエンザの同時流行対策の提言 日本医事新報 5153:38-45, 2023.
- 菅谷憲夫 新型コロナとインフルエンザの同時流行対策の提言 日本医事新報 5114:32-36, 2022.
- 岩田健太郎 新型コロナウイルス感染症「5類の後の世界」 日本医事新報 51日本医事新報 5153:38-45, 2023.:38-45, 2023.
コメント